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加藤清正 Ⅱ その39

『虎之介現場に到着』

広場を外れて町筋にかかると、韋駄天走りになった。

虎之介は15歳ですが、壮年の者よりずっと大柄です。

したがって、差している刀も頑丈なものです。

重ねも厚ければ、はばも広く、長くもある。

加藤清正家紋(蛇の目)
ka.加藤清正家紋(蛇の目)

その長い刀の鯉口をつかみ、小具足がための長い足を飛ばして、疾風のように走った。

やがて、虎之介は騒ぎが起きている町についた。

その家を遠巻きにとりまいて、町奉行所の人数がつめている。

あぐね果てていることとて、今はもう騒ぎも、ひしめきもなく、ぼんやりとその家を見つめているだ

けであった。

現場を指揮する役目である役人は驚いた。

「あ、これこれ」

と言いながら、小走りに走り寄って来た。

「なんでござる」

虎之介は振り返った。

「貴殿はどなたでござる。どこに行かれるのでござる」

「拙者は加藤虎之介清正、お側小姓を務めている。ここに籠りがあると聞いたので、取り押さえにま

いったのだ」

きりりと引き締まった声で、はっきりと答えた。



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robin 20230131




<参考文献:海音寺潮五郎「加藤清正」>
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加藤清正 Ⅱ その38

『虎之介に事件が伝わる』

虎之介は大いにやる気があった。

立派な武士になりたいと、日夜考えていたといいます。

ですから、非番だというのに、万一の用心のために大手前に来ているのであり、また秀吉の領民ら

の心の収攬法を見て、大いに感心していた。

長浜城
na.長浜城本丸跡 301

余念もなく見物している虎之介の腰を、ふと後ろから突くものがあった。

振り返って見ると、この頃、雇い入れた源三郎という小者である。

生まれは長浜近くの漁師の子で、年はやっと11歳だが、はしっこくて、気がきいているので、草

履取りにして召し使っているのであった。

源三郎はおどけた顔の子供だった。

「やあ、源三郎」

と、虎之介は笑いながら言った。

「やあ、源三なんぞと、のんびりしたことを言うときやありまへんで。本町で大騒ぎが起こってん

のですぞ」

真っ黒に日焼けした顔に、茶色の目をくるくると動かしながら、源三が語ったのは、市足久兵衛の

刃傷家ごもり事件のことであった。

「やッ、そうか」

というや、虎之介は広場を後にした。

本当は走り出したかったのですが、あわただしい様子を見せて、広場中を騒ぎ出させてはならんと

思ったのです。



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robin 20230130




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加藤清正 Ⅱ その37

『やる気を興させる』

現代においても、学校では人使いの方法などは教えてくれません。

先輩や、上役や、親や、兄のやり方を見よう見まねで身につけて行くより他はないのですが、それで

も経済学だ、政治学だ、というような学問は教えられるし、書物が多種多様にあるから、やる気があ

るなら、人使いの方法だって、学びとり易い。

豊臣秀吉(1537-1598年)
to.豊臣秀吉 001

しかし、この時代は大変だったのです。

学校のような特別な教育の場はありません。

書物だって無いにひとしい。

政治の方法だって、人使いの方法だって、人の真似をするよりほか学ぶ途はなかったのです。

手本になるのは、大方は主人、大方は家中の先輩です。

主人が名君であり、先輩が賢臣であれば、いい手本になるという訳です。

織田信長や徳川家康や秀吉などは家臣に名将が輩出したのも、この道理なのです。

しかし、この3人の家臣が全部名将ではなく、あまり感心しない人物も相当いたのはどういう訳でし

ょうか。

本人らが持って生まれた素質もあるのでしょうが、何よりも大きいのは、志が立っているかどうかな

のでしょう。

やる気を興すということです。

やる気がない者は、どうしようもないのです。



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robin 20230129




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加藤清正 Ⅱ その36

『本丸でも踊り』

この日、虎之介は非番であったが、こんな日はよく椿事(ちんじ)が起こるものであると思って、小

具足に身をかためて、大手の門前の広場に行っていた。

広場はたいへんな賑わいであった。

秀吉が櫓の上に出て来て見物しているので、在所在所から出て来た踊り組は皆ここにきて、ひとしき

り踊って見て貰おうとするのです。

長浜城本丸跡
na.長浜城本丸跡 002

秀吉がまたこういう際における民衆の心をとるのが、実に巧みな人で、扇子をひらいてあおぎ立て、

持ち前の大音声で誉め、組ごとに近習に銭を持たせて届けるのです。

人々は無我夢中になって踊るのであった。

こういうことも、虎之介には学問になる。

『なるほど、人というものはこうして使うものか』

と、おおいに感心したことでしょう。



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robin 20230128




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加藤清正 Ⅱ その35

『手ごわい久兵衛』

戸はたちまち破れ、真っ暗な中がのぞいた。

「それ、踏み込め」

と、上司が叫ぶと、気の強いのが2人、6尺棒を槍のように構えて走り込んで行ったが、たちまち一

人は頬っぺたを歯が白く出るくらいに切裂かれ、ひとりは棒を切り折られたうえに左の二の腕を骨に

とどくほどに斬られて、飛びかえって来て

「手ごわい! 手ごわい!」

と、わめき立てた。

長浜城
na.長浜城 201

「いくじのない! たかが知れた足軽でねえか。誰か覚えのあるものはいねえか! この上は召捕

るにおよばぬ。討捨てにしてよいぞ」

上役は歯がみをしていきどおった。

励まされて、また飛び込んで行った者があったが、これも耳をそぎ落とされて逃げ返ってきた。

三番目にまた飛び込んだ者があったが、これはギャーと水鳥かなんぞ絞め殺される時のような悲鳴

をあげたきり、出て来ない。

しんと中は静まりかえっていた。

「どいつこいつも容赦しねぞ! 入って来る奴はみんな殺してやる」

と、久兵衛はどなりつけて、奥へ姿を消した。

こうなっては、もう踏み込んで行こうとする者はない。

家を遠巻きにして、わいわい騒いでいるだけであった。



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robin 20230127




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加藤清正 Ⅱ その34

『家(や)ごもり』

市足久兵衛は完全に狂気状態になった。

一軒の戸をこじ開けて入りこみ、家人らを追い払って、立てこもってしまった。

「入って来てみろ! ひとり残らず、たたき斬ってくれるぞ」

と、怒鳴って人々を威嚇した。

長浜城本丸跡
na.長浜城本丸跡 000

こういうのを、当時は「家(や)ごもりもの」または単に「こもりもの」と言った。

人の気も荒々しい時代ですから、よくあったという。

こうなっては、町の者では手におえない。

人々は奉行所に行って訴えた。

奉行所からつかわされた下役人は、久兵衛の妻を連れて、久兵衛が籠っている家の前に行き、出て

来て尋常におさばきを受けなければ、妻の身に迷惑がおよぶであろうと言い、妻からも諫めさせた

が、久兵衛はきかない。

「卑怯なことをするわい。それがお奉行のなさることか」

と、役人らをののしり、妻に対しては

「何ば役人に言われたかて、おれは男の意地で家ごもりをしているんじゃ! くだらんことを言わ

んで、あっちへ行けい」

と叱りつけ、少しも心を動かす様子が見えない。

説得で行かなければ、力ずくでやるよりほかはない。

役人らは久兵衛の妻を連れ去っておいて、その家を取り囲んだ。

大きな丸太を担いできて、数人で戸をつき破りにかかった。



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robin 20230126




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加藤清正 Ⅱ その33

『暴れる久兵衛』

たちまち、ひとりの見物人と肩が触れ合った。

「なにをする!」

と、どなった時には、もう突き飛ばしていた。

長浜城(模擬天守)
na.長浜城 000

「やい、やい、やい! 何のうらみがあって、おれの肩を小突きおった!」

相手はあっけにとられながらも、おずおずという。

「おれ、こづきはせんがな。あんたの方から突き当たって、突き飛ばしはったのがや」

酔狂人に対しては、強い態度で出るのが一番よいが、それが出来なければ、逃げ出すよい。

中途半端な態度では、益々酔狂を挑発するだけなのです。

この場合、弱々しく抗議するという最も知烈な態度に出たから、市足久兵衛は目をむいた。

「うぬは、おれを小突きまわし、突き飛ばしながら、罪を俺にきせようというのか!」

と、どなり立てると、胸ぐらをつかんで殴りつけ、突き飛ばした。

突き飛ばされた相手は、ちょうど来かかった踊りの群れにたおれかかった。

人々は一部始終を見ている。久兵衛が悪いのです。

「阿保ンだれ! このめでたい日に、なんちゅうことをさらすのじゃい!こらしめたれ!」

と、叫びかわすと、女子供は家に逃げ込んで、ばたばたと戸を閉め、屈強な若者だけが残って、石こ

ろを掴んでは投げつけ、手桶の水をぶっかけ始めた。

春とはいえ、早春の湖北はまだ冬と同じです。ずぶ濡れにされて酔いはさめたが、乱暴な性質はカッ

と激情した。

「クソたれども!卑怯千万」

と、絶叫し、暴れはじめた。

腕は立つのです。4、5人を斬って一層あれ狂った。



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robin 20230125




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平成26年6月30日に100城を制覇しました!

城郭ライトアップの撮影にチャレンジします。


「日本百名城塗りつぶし同好会」にも参加しています。

会員番号:908です。

日本百名城塗りつぶし同好会

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*参考文献:日本100名城公式ガイドブック、Wikipedia



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