前田慶次郎 その10 「鬼形相の厩者たち」

戦国風流武士「前田慶次郎」その10

「鬼形相の厩者たち」

慶次郎は、暫くの間はあてもなく馬を走らせて駿足を楽しんだが、間もなく西へ城下から半里ほど離れた

米丸村に入った。

村の中ほどに、いかめしく土塀を巡らした大きな屋敷で馬を止めおりた。

「この辺まで馬を走らせて遊びに出ましたところ、急にお会いしたくなったので参りました」

「ようこそ。さあ、お上がりください。」

「今日はたいへん福徳のある日で、朝、殿様から美酒を一樽いただいたかと思うと、先刻、宿のあるじが

見事なアユを届けてくれましてな。一人でいただくのもあじけないと思いまして」

「それはありがたい。虫が知らせたのですな。急に無性にこちらに伺いたくなりましたのは」

二人は声をそろえて笑う。

日本百名城35 金沢城
ka.20100404 金沢城 004

「出来上がりましたか。この前のものは」

さかずきを上げながら、慶次郎は尋ねた。

主人は手文庫を持ってきて、中から一枚の紙切れを取り出した。

半紙の全面にいくつも絵か書いてあり、それは刀のつばや、柄頭や、目貫や、そんなものの下図であった。

「素晴らしいですな。質素でありながら堂々たる風格のあるところ、いつものことながら頭がさがります」

「ちょっと面白いでしょう」

主人は楽しげに笑った。

「あなたの方は如何です。だいぶ進みましたか」

と聞いたが、慶次郎の国文学の研究についてであった。

「まあ、ぼちぼちですな。伊勢物語に、ちょいとした意見が出来たのですが、いずれは文章にしてご覧に

いれます」

打ち解けた話をし、飲み交わしている時、にわかに門前が騒がしくなった。

「清談を妨げますな。追い払ってまいりましょう。」

門前には2、30人の厩者どもが、松風を取り巻いてひしめいていた。

「よくわかったな」

慶次郎は、先ずこう言って、愛嬌良く微笑して続けた。

「さすがに叔父御が大事にしているとあって、名馬だ。駿馬だ。お陰さまでいい気持ちであった。礼を言

うぞ」

けろりとした調子だ。みんな気を飲まれたが、暫くすると怒りが甦って、

「あまりでございます」

「おいたずらにも程がある!」

「馬に万一のことがあったら、おいらっちの命は亡くなるのだ!」

「このままでは、捨ておかれん!」

などとわめき立てる。

松明の赤い炎に照らされて、ヒゲだらけの荒々しい男どもが大きな口をあいて怒号するさまは、地獄の鬼

どもの群像のようであった。

「まあ、そう怒るな、叔父様にはおれからお断りするから、その方どもには迷惑はかけん。これで一杯やっ

て機嫌をなおしてくれ」
4、5枚の金をまいた。

判銀が地に落ちると、たちまち大混乱が起こった。

地獄の鬼どもは、美肉に襲いかかる飢えた狼にかわって、おし合い、へし合い、突き飛ばし、突き飛ばされ

ながら拾いにかかった。

ume 20120812 001

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『戦国クイズ』

≪前回の解答≫
前回の正解:鏡栗毛
織田信長の馬揃えの際、一豊の妻・千代は貯えていた嫁入りの持参金を夫に渡し、名馬「鏡栗毛」を購入させたという。
ちなみに、帝釈栗毛は加藤清正の愛馬で、 膝突栗毛は島津義弘の愛馬です。

≪本日の問題≫


                           <参考文献:戦国風流武士 前田慶次郎(海音寺潮五郎暑)>
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