加藤清正 Ⅱ その81
『鹿之助は自害の覚悟』
亀井が帰って来たと聞くと、秀吉の顔には、見る見る失望の色があらわれた。
立てた計画が行われなくなったことを知ったふうであった。
「これへ、すぐ」
「はっ」
虎之介は急いで出た。亀井はもう陣所の前で待っていた。
豊臣秀吉

秀吉の前に出た亀井は、愁然とした面持ちでいう。
「鹿之助に会い、お言葉の次第を申し伝えましたところ、鹿之助は涙をこぼして、ご芳情に感謝いた
しましたが、さりながら、それは出来ぬことであると申すのであります」
「出来ぬここと?」
「はい、この重囲の中を突破してご勢に合すること、拙者ひとりならば出来ますが、士卒どもにはと
うてい出来ますまい、取り込めて討ち取られるもの過半数におよびましょう。それでは、拙者一人の
命が助かるために、士卒をいけにえにすることになります。上に立って采配とった身として、忍びぬ
ことでござる。拙者は、拙者こそ死んで、士卒の命に代わりたくござる。されば、筑前守殿には、こ
の城中のことにはおかまいなく。ご退陣くだされたい。ご退陣の後、拙者は拙者と勝久が切腹いたし
まして、開城する故、士卒の命は助けられたいと毛利勢に申し込むつもりでござる。とかように申し
ます。拙者はおし返し、おし返し、幾度も申しましたが、鹿之助の志は固いのでござる。いたし方な
く、すごすごと引上げてまいりました」
と言って、亀井は涙をこぼした。
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いつもありがとうございます。

<参考文献:海音寺潮五郎「加藤清正」>
亀井が帰って来たと聞くと、秀吉の顔には、見る見る失望の色があらわれた。
立てた計画が行われなくなったことを知ったふうであった。
「これへ、すぐ」
「はっ」
虎之介は急いで出た。亀井はもう陣所の前で待っていた。
豊臣秀吉

秀吉の前に出た亀井は、愁然とした面持ちでいう。
「鹿之助に会い、お言葉の次第を申し伝えましたところ、鹿之助は涙をこぼして、ご芳情に感謝いた
しましたが、さりながら、それは出来ぬことであると申すのであります」
「出来ぬここと?」
「はい、この重囲の中を突破してご勢に合すること、拙者ひとりならば出来ますが、士卒どもにはと
うてい出来ますまい、取り込めて討ち取られるもの過半数におよびましょう。それでは、拙者一人の
命が助かるために、士卒をいけにえにすることになります。上に立って采配とった身として、忍びぬ
ことでござる。拙者は、拙者こそ死んで、士卒の命に代わりたくござる。されば、筑前守殿には、こ
の城中のことにはおかまいなく。ご退陣くだされたい。ご退陣の後、拙者は拙者と勝久が切腹いたし
まして、開城する故、士卒の命は助けられたいと毛利勢に申し込むつもりでござる。とかように申し
ます。拙者はおし返し、おし返し、幾度も申しましたが、鹿之助の志は固いのでござる。いたし方な
く、すごすごと引上げてまいりました」
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