加藤清正 Ⅱ その83
『佐吉の心は氷みたいに冷たい』
虎之介と市松は、敵が追撃にかかったら、忽ちとって返して戦うつもりで、殿軍(でんぐん)に紛れ
込んで、たえず敵の様子を見ながら行軍したが、ふと、市松が言った。
佐吉(石田三成)

「虎よ」
「おお、市松、何じゃい」
「佐吉め、泣いていたの。亀井殿が山中殿のことを語った時」
「ああ、泣いていた。男ならば、泣かんでおれんわい」
「その通りじゃ。じゃが、佐吉は男かよ」
「なんじゃと?市松、われは妙なことを言うの」
と、虎之介は振り返った。
その顔を市松はきっと見て、怒っているような表情で言う。
「おれは佐吉は男ごころがあるとは思わんから、あの時、佐吉が本心で泣いていたとは思わん。殿
が泣かれた故、追従して泣いたのじゃとしか思われんのじゃ。やつの根性は氷のように冷たいのじ
ゃ。腹黒いのじゃ。いつも算用ばかりしている」
虎之介は、あの時の石田の様子を思い出そうと努めた。
ひっそりと少し顔をうつむけて、白い指先で目頭を抑えている姿が思い出された。
そうかも知れないと思ったが、そうとは思いたくなかった。
だから、笑った。
「市松よ」
「何じゃい」
「汝(われ)の言う通りかも知れん。しかし、そう思うてはならんものじゃ。人の心をあまり裏くぐ
りして考えては、心が卑しゅうなりと、おれは思うているが、どうであろう」
市松はむっつりして、口をつぐんだ。
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いつもありがとうございます。

<参考文献:海音寺潮五郎「加藤清正」>
虎之介と市松は、敵が追撃にかかったら、忽ちとって返して戦うつもりで、殿軍(でんぐん)に紛れ
込んで、たえず敵の様子を見ながら行軍したが、ふと、市松が言った。
佐吉(石田三成)

「虎よ」
「おお、市松、何じゃい」
「佐吉め、泣いていたの。亀井殿が山中殿のことを語った時」
「ああ、泣いていた。男ならば、泣かんでおれんわい」
「その通りじゃ。じゃが、佐吉は男かよ」
「なんじゃと?市松、われは妙なことを言うの」
と、虎之介は振り返った。
その顔を市松はきっと見て、怒っているような表情で言う。
「おれは佐吉は男ごころがあるとは思わんから、あの時、佐吉が本心で泣いていたとは思わん。殿
が泣かれた故、追従して泣いたのじゃとしか思われんのじゃ。やつの根性は氷のように冷たいのじ
ゃ。腹黒いのじゃ。いつも算用ばかりしている」
虎之介は、あの時の石田の様子を思い出そうと努めた。
ひっそりと少し顔をうつむけて、白い指先で目頭を抑えている姿が思い出された。
そうかも知れないと思ったが、そうとは思いたくなかった。
だから、笑った。
「市松よ」
「何じゃい」
「汝(われ)の言う通りかも知れん。しかし、そう思うてはならんものじゃ。人の心をあまり裏くぐ
りして考えては、心が卑しゅうなりと、おれは思うているが、どうであろう」
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<参考文献:海音寺潮五郎「加藤清正」>
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