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加藤清正 Ⅱ その164

『清正の帰宅』

門から玄関につづくあたりに足音がしてきた。

お沢の胸はいきなり激しく鼓動しはじめた。

駆け出して行きたかったが、こらえて、しかけている仕事の区切りをつけると

「お帰りーッ!」

と呼ばわる声が聞こえた。

虎之介が供に連れて行っている若党の声だ。

熊本城の清正公
ka.加藤清正像 002

召使らの立ち騒ぐ音がし、下女が庭から駆け込んできた。

「旦那様がお帰りでございます」

と、叫ぶように言った。

「そうかい、そうかい。そのようであると思うていました」

お沢は小桶で手をしゃかしゃかと洗って拭いてから、その手でちょっと髪をかきつけて、それから屋

内を通って玄関に出た。

虎之介は式台に腰をおろし、わらじの紐を解いているところであったが、母の足音に振り返った。

「これは母様、やがてご挨拶いたします」

にこりと笑いながら言って、紐を解き続けた。

ほんの一瞬見せた顔であったが、無量の愛情に満ちているように、お沢には思われた。あやうく涙が

こぼれてきそうな気がした。

お沢は土間に降りた。

そこにはすすぎ台が据えられ、清正がわらじを脱ぎ終わったら、その足を洗おうと下僕たちが待ち構

えている。

お沢は

「わたしが洗って進ぜます」

下僕たちがためらっていると、笑いながら言った。

「洗って進ぜたいのですよ。戦さから、無事に、しかも手柄を立てて、帰りなさったのじゃから」

「へい、へい、へい。ごもっともで」

下僕たちは納得して退いた。



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robin 20230606

 


<参考文献:海音寺潮五郎「加藤清正」>
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