加藤清正 Ⅱ その168
『母のことば』
母は、ふと思い出して尋ねた。
「そなた、怠らずお題目をとなえているかえ」
「はい・・・」
と、答えはしたが、ためらい気味になった。
加藤清正具足

唱えてはいるが、怠らずとはいえない。勤務の忙しさや、戦場の烈しさは、つい忘れがちにさせて
しまうのです。
「せっせとではないのだねえ」
清正はわびた。
「申しわけありません。そうは思っているのですが、つい忘れてしまうのです」
「考えて唱えるのでは、忘れます。いつも出るようにすればよいのです」
「はい、これからはそうします」
「お題目の功徳は広大でありますぞえ、そなたはいつの戦さにも傷ひとつ負わず、立派な手柄を立て
て、その年で今の身分になりやったのを、自分の力と思うていやるかも知れぬが、それは浅い考えで
ありますよ。そなたが殿様のご縁者の端に生まれて、殿様のご家来になりまさったのも、強いからだ
と勇ましい心をもって生まれなさったのも、息災で、いつんの戦さにも人にすぐれた手柄を立てるこ
とが出来やるのも、みなご先祖代々の法華の信心のご利益であると、わらしは思っています。殿様に
しても、あんなにえらいお人に生まれなさったのも、ご運がめでたいのも、これまたご先祖代々の法
華信心の功徳に相違ありません。殿様はご信仰がお薄いようでありますが、ご隠居様も、ご姉妹方も、
みな熱心な法華信者であられるからです。わたしの言うことを、年寄りのおなごの言うことじゃと、
いいかげんに聞いてはなりませんぞ。これからは怠らずお題目を唱えるように。そうしたら、そなた
はどんな強い敵に逢っても必ず勝ちます。必ず手柄が立てられます。いいかえ」
順々と言い聞かせる母の言葉に、清正いちいち素直に頷きながら、聞いていた。
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いつもありがとうございます。

<参考文献:海音寺潮五郎「加藤清正」>
母は、ふと思い出して尋ねた。
「そなた、怠らずお題目をとなえているかえ」
「はい・・・」
と、答えはしたが、ためらい気味になった。
加藤清正具足

唱えてはいるが、怠らずとはいえない。勤務の忙しさや、戦場の烈しさは、つい忘れがちにさせて
しまうのです。
「せっせとではないのだねえ」
清正はわびた。
「申しわけありません。そうは思っているのですが、つい忘れてしまうのです」
「考えて唱えるのでは、忘れます。いつも出るようにすればよいのです」
「はい、これからはそうします」
「お題目の功徳は広大でありますぞえ、そなたはいつの戦さにも傷ひとつ負わず、立派な手柄を立て
て、その年で今の身分になりやったのを、自分の力と思うていやるかも知れぬが、それは浅い考えで
ありますよ。そなたが殿様のご縁者の端に生まれて、殿様のご家来になりまさったのも、強いからだ
と勇ましい心をもって生まれなさったのも、息災で、いつんの戦さにも人にすぐれた手柄を立てるこ
とが出来やるのも、みなご先祖代々の法華の信心のご利益であると、わらしは思っています。殿様に
しても、あんなにえらいお人に生まれなさったのも、ご運がめでたいのも、これまたご先祖代々の法
華信心の功徳に相違ありません。殿様はご信仰がお薄いようでありますが、ご隠居様も、ご姉妹方も、
みな熱心な法華信者であられるからです。わたしの言うことを、年寄りのおなごの言うことじゃと、
いいかげんに聞いてはなりませんぞ。これからは怠らずお題目を唱えるように。そうしたら、そなた
はどんな強い敵に逢っても必ず勝ちます。必ず手柄が立てられます。いいかえ」
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<参考文献:海音寺潮五郎「加藤清正」>
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